最近、涙を調べることで乳がんかどうかを判断できる検査法の開発をしていると話題になっています。
涙の中に含まれているある物質を調べて測定することによって、痛みを伴わずに検査できるであろうと開発されています。これが実現したら画期的です。
涙で乳がんを検出するTearExo法
この検査はドライアイの検査で用いる試験紙を目じりに挟んで涙の採取をするだけなので、ちっとも痛みがありません。
涙を採取したあとは自動分析計で涙の中のエクソソームというものを測定します。
そもそも乳がんの検査をしている人はまだまだ少ない。その理由に「痛さ」があります。
乳がんの検査といえば帰ってくる言葉は「あれ痛いよね~?」です。
乳がん検査の痛さが嫌で検査をしない方が多いと聞きます。
私の友人もその一人で「そんなもの我慢できるからちゃんと行け」と号令かけてやっと行かせました。
皆の嫌いな乳房マンモグラフィは、乳房をのし餅のように押しつぶしちゃうし、細胞診は麻酔なしで注射器を乳房の中のしこりに刺す検査です。
けれどもっと痛くて怖いのは「針生検」。ピストルのような機械で乳房に注射針より少し太い針を刺し、組織を取り出す検査です。
もちろん麻酔はしますが、乳房の組織を取り出すので、検査のあとで痛くなります。
そんな痛い乳がん検査のイメージを、もしかすると一変できる日が来るかもしれません。
乳がん検査、涙の中にあるエクソソームを調べる
涙液中のエクソソームを測定することで乳がんを検出する「TearExo(ティアエクソ)法」は2016年から研究が進められてきました。
神戸大学医学部附属病院放射線腫瘍科の佐々木良平教授、乳腺内分泌外科の谷野裕一教授、測定機器メーカーのシステム・インスツルメンツらとタッグを組み、共同研究を行う研究集団「チームTearExo」を立ち上げました。
エクソソームとは
エクソソームというのはエクソソームはさまざまな細胞から放出される100ナノメートル程度の大きさの細胞外小胞の一つ。
(現在、感染拡大が続く新型コロナウイルスとちょうど同じくらいの大きさだそう)
エクソソームはがんの新しいバイオマーカーとして有望視され、エクソソームを用いた体の負担が少ない液体生検の開発が現在、盛んに行われています。
そして今回、がん細胞から出るエクソソームが、がんの増殖や転移に関わることが明らかになりました。
がん細胞由来のエクソソームが検出されれば、体内にがんが存在するということになります。
がん細胞が出すエクソソームの超高感度検出に成功
神戸大学大学院工学研究科の竹内俊文教授方が、このエクソソームを超高感度に検出する測定法を開発しました。
今後は臨床試験によるデータを蓄積し、2022年度までの実用化を目指すようです。
乳がんの検査を涙で検査をする理由
エクソソームは体液中に存在するので、血液や唾液などから検出することもできます。
ただ血液中には食事から摂取した栄養素など様々な物質が溶け込んでいるし、唾液ともなれば食べかすや細菌なども多いので都合が悪いそうです。
そこで「涙」が役にたつというのです。
涙は余計なものが混ざりこんでないので生体飼料としては魅力的なのだとか。
乳がん検査の涙の採取は自宅でもできる?
実は涙液中のエクソソームは少ないのだとか。
なんと涙液中のエクソソームは血液中に比べると10の1から100分の1程度と少ないのです。
それでも涙を利用するには「理由」があります。
それは採取のしやすさ。
ドライアイの検査で用いるシルマー試験紙を目尻に挟んで、待つこと数分。試験紙に涙が滲んで青色に変わってきたら、涙の採取は終了。
あとは自動分析計で涙の中のエクソソームを測定すれば、乳がんかどうかがわかるというのです。
これほどまでに手軽にできるということは、つまり涙の採取は自宅でできてしまうということです。
わざわざ病院に足を運ばなくても、自宅や近所のドラッグストアなどで自己採取をして検査機関に送るといった方法も将来的には可能だと期待されています。
涙を自分で採取して検査機関に送ることによって、乳がんのリスクを判断してもらえる、なんといってもこの簡便さが特徴の検査方法になり得ます。
今後、実用化されれば受診率の向上や早期発見につながることになるでしょう。
昨日、ニュースになりましたが、新型コロナを気にして病院に行くのをためらっていた元宝塚のトップスター峰さお理さんが亡くなりました。
新型コロナ感染を気にするあまり、病院に行くのをためらっていたために甲状腺がんの病状が悪化してしまったそうです。
峰さお理さんは昔、私が宝塚を観てた頃のスターでしたので、ショックです。ご冥福をお祈りいたします。
自宅でガンの検査ができれば、このように気軽に病院に行きにくいときでも検査を受けることができるるのです。
凄い時代がやってくるかもしれません。
涙で乳がん検査の今後
今後臨床研究を本格化し、2022年度にも体外診断薬として厚生労働省の製造販売承認の申請を目指すということです。
今後は医学部の付属機関の協力を得て、乳がん患者の手術前後の涙を測定することで検査技術の精度などを評価することになります。
臨床研究に必要な装置やチップの制作にかかる費用の一部をまかなうため、4月中旬までにクラウドファンディングで1000万円の寄付を募っているということです。
日本の乳がん検診受診は相変わらず低い
乳がんになる年代は40歳~60歳代が一番多く、その年代は女性が一番忙しい時期。家族のことや仕事に介護にと、自分のことを後回しにしがちな年齢です。
がん検診の受診率はいまだ低く、なんと4割程度の低さです。
乳がんは早めに見つけて治療すれば治るガンです。
発見が遅くなるほど結果が悪くなるのは他のガンと同じ。
皆が嫌がるマンモグラフィーの代わりになる検査が実現できれば、乳がんの発見はもっと早くなるはずです。
涙の乳がん検査:検査の流れ
難しいことは書きませんが、簡単に検査の流れを説明するとこんな感じです。
- 涙を採取した試験紙をリン酸緩衝液に浸して、涙の中のエクソソームを抽出。
- 抽出した検体をチップに吸い込み、チップ表面の変化を測定します。
分析時間は一チップにつき5分以内で、かなり早く分析できるも特徴なんだとか。
乳がん以外のがんにも
まだまだ検体数が少なく、実用には時間がかかりそうですが、今後は対象者を増やして乳がん検出の感度と特異度を評価していきたいということです。
そして、その先に期待されているものとしては、乳がん以外のがん。大腸がんや膀胱がん、卵巣がんにも対象を広げていきたいと研究者は語っています。
乳がんの研究の取り組みは、いろいろあるでしょうが、この涙を検査する「TearExo法」は、今後すべての女性がお世話になる日が来るかもしれません。
痛くない検査の実現、乳がん人口を減らすために、どうか実現できますように。