私は全て標準治療で乳がんの治療を受けました。
当時、お金がなかったので、特別なことをできる余裕がなかったのが1つの理由。標準治療なら公的医療保険が適用されるので、実際には高額な治療であっても自己負担額が原則3割負担で済みますので。
もう一つは私が物を選ぶときの基準にベストセラーを選ぶ傾向がありまして、というのも、皆が良いと認めてるものこそ信用できると、なんとなく思ってるので、いつも多数の人が選ぶものに手を出してしまいます。治療も主治医に「全て標準的なものでお願いします」と伝えてありました。
そんなことが理由で特に何も知識がないまま標準治療を選んでいました。
けれどこれが大正解。
当時はよく分かってませんでしたが、実は「標準治療」こそがスペシャルなえり抜きの治療だったのです!
今回は標準医療がどんなに優れた治療であるかをご説明いたします。
「標準治療」こそえり抜きの治療だった
世の中に治療法は山ほどありますが、その中で世に出る治療法はほんの一握り。保険適用になるまでには、徹底的に調び抜かれて選ばれるのをご存じでしょうか。
治療法が標準治療として認められる工程はこんなかんじです。
- まず、はじめに、マウスなどに試して少しでも効果がある可能性を調べます。
- 次に、人間に毒性がないか調べます。
- この段階でやっと少数の人間に試してみて効果があるか調べます。
- 現時点でいちばん有効な治療薬と比較をして、優れているか調べます。
膨大な工程を経て、やっと標準治療として認められることになるのです。その数なんと1万個の新薬のうち、実用化されるのは1つだけの割合にしかすぎないというのは驚きです。
そして費用面でも驚きです。抗がん剤ひとつを作るのにどのくらいの費用がかけられているかご存じでしょうか?
なんと700~800億円もかかるのだとか。これほどの労力を用いて1年に生まれる新薬の数はほんのわずかなんだそうです。
「標準治療」というネーミングへの誤解
英語では標準治療のことを「Standard treatment」と言います。「Standard」は「標準」ですからそのまま訳したのでしょう。
英語の「Standard」には「全員が行うべき優れたもの」というニュアンスがあるのだそうです。
けれども日本語には「標準」という言葉にはそれがない。日本語で「標準」と聞くと、普通のものとか、基準的なつまらないもののイメージになってしまいますから、これが誤解のもとだったのではないでしょうか。
なんかネーミングで損していますが「標準治療」は実は選りすぐりのエリートな治療法なのです。「優良治療」とか「スーパー治療」とか「エリート治療」とか、とにかくプラスイメージだったらよかったのに。
「標準治療」に対して「未承認治療」とは何か
ここで気になるのは、標準治療以外に何があるかということ。
聞いたことはありますが、案外わかっていない標準治療以外の治療について説明します。大きく分けると「先進医療」「治験」「代替療法」の3つになります。
先進医療
先進医療とは、海外や国内での基礎研究である程度の効果を認められている治療法の中で、国が保険適用に承認できるほどの信ぴょう性の高いデータが取得できていないものを言います。
国が承認できるレベルのものは、6年間で全体の6%という、かなり狭き門です。そのくらい厳しい条件に勝ち抜いた治療が標準治療になります。
治験
治験とは臨床試験のこと。製薬会社などが開発した新しい治療法が、安全で友好であるかを調べます。
治験薬は無料で提供され、診療費や検査費用、場合により入院費も無料、しかも通院費も出たりすることがあると聞きます。が、参加条件があるようで希望しても参加できるとは限りません。
大学病院だと医師からお誘いがあったりします。治験に参加してみたい方は、病院に聞いてみてください。
代替療法
代替療法は民間療法や自由診療などがあります。
民間療法
ヨガや健康食品や音楽療法、温泉療法、漢方薬など、代替療法はがん治療において効果が期待できないものが多いので要注意です。
どれも本当に効果がるのかちゃんと臨床試験を行っていません。
ガンに効果があるとうたっている代替療法は疑ってかかることです。
漢方薬などの中には、一部保険適用になっているものもあります。
がんを縮小させられたり、延命効果が発揮できたという民間療法はひとつもないのが実情です。
自由診療
自由診療は代替療法に入りますが、クリニックなどの医療機関で自費で行われる療法のことを指します。医師がやってるので安心しがちですが、がんに有効であるという科学的根拠を証明できているものではないのです。
「がんが消える」と宣伝してある自由診療。もちろん本当にがんが消えるのなら標準治療として保険適用になっているはずです。
うっかり信じてしまってガンは治らず、多額のお金を失ったということにならないように注意が必要です。
効果があるかわからない治療法ではなく標準治療を選ぼう
インターネットや本や友人や人づてなど、いろんな情報が目につきます。
生存率に差が付く「標準治療」
代替療法はちょっとお金があって意識高い系の人の方が、標準治療以外のものに手を出す傾向があるようです。
学歴が高い人や人脈がある人達はよくよく調べて、情報を集めます。がんと聞くと周囲の人間からの紹介話や、それに付随するしがらみも生じがちになります。集まった情報の中には本当にガン治療に役立つ話もあれば、そうでもない話もあります。
いろんな治療を見ていると。標準治療以外の治療は「標準治療以上に優れている治療」のように見えてくるものです。ですがそれは実は大きな誤解です。
どちらを選択すべきかという問題は生存率にはっきり表れています。標準治療を受けずに代替療法を受けている人の方が5年生存率が低いのです。
大腸がんでは標準治療を受けたグループと、代替療法のみのグループで比較して、生存率に45%もの差がありました。
標準治療と代替療法の併用をする人も、残念ながら低い結果になるのだそうです。治療途中で体調が良くなると標準治療をやめてしまう人が多いのだとか。
併用するにも程度と内容によって違うので、主治医とよく相談をして決めてくださいね。
標準治療以外の話
治験への参加を勧められたら
私達が飲んでいる薬。その薬が出来上がるまでにはたくさんの段階を経て生まれます。
新しい薬や治療法を承認するために必要な臨床試験を「治験」と呼びます。
様々な行程を経て精査してやっと人間の身体に使える段階になったものを健康な成人や患者に使用して、効果や安全性、治療法(適正な投与量や投与方法)などを確認する目的で行われる臨床試験のことを「治験」といいます。
製薬会社は「治験」の結果をもって厚生労働省に申請し、薬として承認されてはじめて、多くの患者に安心して使われるようになります。
薬ができるまでの道のり
私達の飲む薬は、実は完成するまでに相当な険しい道のりを歩んで完成しているのをご存じでしょうか?
厚生労働省で承認されてはじめて、多くの患者に医薬品として使うことができます。
1つの薬ができるまでには、約9~17年かかります。
また、「薬の候補」11,299個のうち「新しい薬」として発売されるのは1個程度しかありません。
1/11,299の確率です。つまり富士山を11,299人の集団で1合目から歩いて行って、途中で次々に脱落した仲間(薬)を後にし、山頂を目指すことのできた1人。そんなイメージを持ちました。
1.基礎研究-薬の候補選び-
「薬の候補」は化学合成物質や植物、土の中の菌、海の生物などから発見された物質の中から、目的とする作用をもったいくつかの成分を「薬の候補」として選びます。これに約2~3年を要します。
2.動物で確認
次に、ウサギやねずみ、犬などの動物で「薬の候補」の効果と安全性を調べます。これは非臨床研究と呼ばれ、約3~5年を要します。
3. ヒトで確認
ヒトで「薬の候補」の効果や安全性を調べます。この段階を「治験」といいます。また、臨床試験とも呼ばれ、約3~7年を要します
第一段階
少人数の健康な成人志願者あるいは患者に対して、ごく少量から少しずつ「治験薬」の投与量を増やしていき、安全性を調べます。
第2段階
少数の患者が「治験薬」を使います。効果が期待できそうな少数の患者について、本当に病気を治す効果があるのか、どのような効き方をするのか、副作用はどの程度か、また、どの程度の量や使い方が良いかなどを調べます。
第3段階
多数の患者が「治験薬」を使います。より多数の患者について、効果や安全性を最終的に確認します。
治験への参加 メリットとデメリット
説明文書には、治験薬のこれまでに見られた副作用や予想される副作用について説明があり、注意事項が書かれています。説明文書は、必ず読んでおきましょう。
メリット
- その分野の専門医師による治療を受けられます。
- まだ広く使われていない、最新の治療を受けられます。
- 治験中、いつも以上にあなたの状態をチェックします。
- もしこの治療が有効なものだったら、あなたは誰より早くその恩恵を受けられます。
デメリット
- 新しい治療は医師も知らない副作用などがあるかもしれません。
- 治療の効果や安全性が、現在の一般的な治療より劣っているかもしれません。
- 新しい治療があなたに対しては、有効でないかもしれません。
治験ができる病院
治験は病院で行われますが、どの病院でもできるというわけではなく、治験を行う病院は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」という規則に定められた要件を満足する病院だけが選ばれます。
その要件とは次のことが挙げられます
- 医療設備が充分に整っていること
- 責任を持って治験を実施する医師、看護師、薬剤師等がそろっていること
- 治験の内容を審査する委員会を利用できること
- 緊急の場合には直ちに必要な治療、処置が行えること
治験への参加を勧められたら
医師は「くすりの候補」を使えば病気に効果があると期待される患者に、治験への参加を尋ねます。
参加条件としては次のことが挙げられます。
- 医療設備が充分に整っていること
- 責任を持って治験を実施する医師、看護師、薬剤師等が揃っていること
- 治験の内容を審査する委員会を利用できること
- 緊急の場合には直ちに必要な治療、処置が行えること
参加は自由意思
患者の自由な意思にもとづく文書での同意があってからでないと治験は始められません。
患者は、わからないこと、確認したいことなど、納得するまでどんなことでも質問することができます。
そして、治験に参加するかしないかは、だれからも強制されることなく、自分の意思で決めてください。説明を受けたその場で決めず、説明文書を持ち帰って家族に相談してから決めることもできます。
参加することに同意いただきましたら、「同意文書」に患者と治験を担当する医師が自筆で署名します。
同意文書の控えと説明文書は患者に渡されます。
治験の流れ
1.お誘い
治験薬を使うことが適していると医師が判断した患者に、治験についてお知らせします。
2.説明
担当医師やCRC(臨床研究コーディネーター)が治験について文書を使って説明します。
治験の目的、方法、治験に参加しない場合の治療法、「くすりの候補」の特徴(予測される効果と副作用)などが書かれた「説明文書」を手渡され、その内容がくわしく説明されます。
患者側は、わからないこと、確認したいことなど、納得するまでどんなことでも質問することができます。
治験薬の説明や目的、治験の方法やメリットデメリットや補償など、どんどん質問しましょう。紙に書いておくと漏れなく質問できますよ。
そして、治験に参加するかしないかは、だれからも強制されることなく、自分の意思で決めてください。説明を受けたその場で決めず、説明文書を持ち帰って家族に相談してから決めることもできます。
3.決定
受ける受けないは自由です。十分に検討して治験への参加を決めてください。自分の健康のことなので、最終的に判断するのは自分ですが、誰かと相談するのも良いでしょう。
4.同意書に署名
参加することに同意できたら、「同意文書」に患者と治験を担当する医師が自筆で署名します。
同意文書の控えと説明文書は患者に渡されます。
5.治験薬の使用開始
治験薬の使用を開始します。きちんとスケジュール通りに行われ、つどに診察・検査を行い、体調の変化や、治験薬の効果があるかなどを調べます。
治験への参加方法
最近ではインターネットで治験の参加者を募集することもあり、分類するとだいたい治験には3種類の参加方法があります。
医療機関でのお誘い
大きな医療機関に通院または入院している場合、主治医や治験コーディネーターから治験への勧められることがあります。
もちろん治験はやらないといけないものでないので断っても大丈夫。
ポスターやチラシとして置いていることもあるかもしれません。興味がある方は医師や看護師に尋ねてみてください。
新聞、雑誌などの募集広告
治験へ参加する患者さんが減少し、十分な参加人数を医療機関内で募るのが困難になったことから、各製薬メーカーは、テレビや新聞、雑誌を通じて、治験参加者を広く一般の患者さんから募集するという、「治験参加者募集広告」をスタートさせました。
治験参加者募集サイト
インターネットのポータルサイト上でも「○×の大規模治験への参加者募集中」といった広告も見かけるようになりました。
ネット上から参加申し込み手続きを開始します。
ネットで幾つかの質問に答えると、画面上でお申込番号と治験コールセンターの電話番号が知らされ、紹介されたた病院に行くというシステムです。
いずれも、担当医師から治験の説明と診察を受け治験の内容を理解、納得した上で参加希望する場合には同意書にサインをします。迷いがある場合はサインを断って大丈夫なので、安心してください。
新薬の臨床試験では、治験薬の効果を調べるために偽薬が用いられることもあります。新薬は、通常はすでにあるくすりのなかでよく似た有効成分のものと比較して、くすりの効果を確かめるやり方が一般的です。ですが、治験薬が今までにないタイプのものである場合には、比較すべき適当な対照薬がないことから、外観や味を治験薬とまったく同じにしたプラセボを作り、比較試験を行います。プラセボがあたるかどうかはあくまでも偶然です。
治験の費用について
参加者に金銭的な負担が生じることはありません。
使用される薬の候補物質は、開発する側の製薬企業から提供されます。薬の候補物質の投与期間中に実施される検査、X線などの画像診断の費用、対照薬が当たった場合の薬代などの投薬や注射の費用も、製薬企業が支払います。
治験に参加するということは、明日の治療の協力になることです。最新の治療を受けられる治験のメリットがあります。
それから、治験が終わったあとも継続して薬を使いたい場合もあるでしょう。
持病がある場合は、現在では終了後も継続したいという希望する患者には、その薬の候補物質を継続的に使えるようになりました。終了後もその候補物質を飲み続けたいと思うのならば、その旨を医師に伝えるとよいでしょう。
わからないことはどんどん質問して、自分の健康のことですから最終的に納得して、自分の判断で決定すれば良いと思っています。
標準治療 まとめ
ガンに限らないと思いますが、病気をすると迷いが生じやすくなります。一般的な治療以外の方が優れているような気がして、ついそちらの方に目が行きがちになってします。
書いている私も、手術前に「そうだガンは温かいのが嫌いらしい」と勝手に決めて、使い捨てカイロを当てていたことがありました。
もちろんカイロで温めて治るくらいなら標準治療に組み込まれているはずです。
今考えるとバカバカしいですが、切羽詰まっているときはそれが気が付かないほど判断力がなくなります。そんな心理状態につけ込んだなんちゃって療法が多いので、ご注意ください。
迷ったら標準治療、そう思っておいた方が良いみたいですよ、というお話でした。読んでいただきありがとうございました。。
参考:「治験」とは|厚生労働省